本吉太々法印神楽

神楽

神楽の語源は、神座(カミクラ)です。神座は、神々が天下ります聖なる場所です。古来、祭りとは、神座に神を迎えることに始まり、そこで人は神を饗応し、神は遊ぶ。満足した神を送り遣ることで、祭りは終わります。
この神遊びが神楽の古い姿と言われます。それは身体から離れそうな魂を鎮め戻す鎮魂(チンコン)と弱りかけた魂を振りおこす魂振(タマフリ)の行法でありました。舞手の躍動は舞手自身の魂の再生をはかり、それによって神座に招いた神霊の復活再生をもたらすのです。
神楽の起源は、天の岩屋戸を前にした天の宇受女(ウズメ)の神がかりの「楽(アソビ)」に求められます。宇受女は大地を踏みならし、笹で大気をかき鳴らしました。身体の振動と呪物との接触、周囲の笑いによって天と地の霊気は覚醒し、その霊気が力衰えた(隠れた)天照大神(アマテラスオオカミ)に注がれることで再生復活が遂げられるのです。

法印神楽

現在、神社に奉仕する神職の多くは、明治維新以前「法印」と呼ばれた修験でした。神仏習合の時代、修験は神社を別当奉仕し加持祈祷を修し神楽を奏しました。法印が携わる神楽が法印神楽であり、宮城県内では牡鹿、桃生、登米、本吉、遠田、岩手県では気仙、胆沢、磐井の各群域で継承されてきました。共に旧仙台藩の版域です。このなかで桃生の神楽は180年ほど前に気仙沼から伝えられたといいます。また、本吉郡戸倉の神楽は古くは気仙神楽と称し、気仙郡から伝えられました。さらに登米の神楽は戸倉の流れであり、現在岩手県内陸の胆沢、盤井の神楽は浜神楽と呼ばれていました。(本田安治著『陸前濱の法印神楽』)これらの由緒の伝承から法印神楽伝播の起点が気仙郡にあると推定されます。

法印神楽の歴史

私たちが継承する神楽も明暦万冶年間(1655~1660年)気仙地方で成立したと伝えられ、やはり気仙神楽と称していました。その後衰退しましたが、江戸中期、本吉郡北部と気仙郡南部の法印が協力して律呂(音律)を整え「本吉太々神楽」として復興を果たした。寛政11年 (1799年)修験道の高祖役行者(エンノギョウジャ)千百年忌法会にあたり、藩内数ある法印神楽の中から選ばれて仙台城下護国殿(良覚院?)で奏したほどの盛儀を誇りました。また、文化年中(1804~1818年)、一関の田村明神千年神忌には、十一代仙台藩主伊達斉義(ナリヨシ)公と田村公上覧のもとに神楽が奏されました (社蔵『両部神楽相伝録』) 。下って、江戸後期には牡鹿半島の各浜、金華山、網地島まで赴き、網入れ前の大漁祈願に神楽を奏した記録が残っています (社蔵『遠嶋御神楽番数記』) 。

近代に入って他の法印神楽が衰退し、その担い手が徐々に法印の末裔である神職ではなく市井の人々に移ったのに対し、私たちの「本吉太々法印神楽」は一貫して法印、神職のみによって継承されています。

法印神楽の特徴

神楽の番数は二十四番(古くは三十三番)を数えますが、現在舞うことができるのは「初矢(ショヤ)」「蛭児(ヒルコ)」「魔王(マオウ)」「日本武(ヤマトタケル)」「両天(リョウテン)」「三天(サンテン)」「叢雲(ムラグモ)」「釣弓(チキュウ)」です。手足の動きは手次本、型本に細かく決められていますが、そこから実際の所作、型を導き出す作業は困難を極めます。手は種々の印を結び、足の動きは陰陽道の反閇(ヘンバイ)に似た「寅(トラ)」を踏みます。
初めに「打鳴らし」の太鼓を打ち、舞台に神々を招きます。大方は「初矢」が最初に舞われます。胴取り(リード)の太鼓と神歌に合わせて木の神、久久能遅神(ククノチカミ)が四方を巡り、舞台を祓い清めます。その後、須佐之男命(スサノヲミコト)を御祭神とする八雲系神社では「叢雲(八岐大蛇《ヤマタノオロチ》退治)」を演じます。大漁祈願には「蛭児(鯛釣り)」が演じられます。
はじめに舞人と楽人とが神歌を掛け合い、ゆっくりと舞います。この舞いは鎮魂の「みかぐら舞」を導き出す序の舞いとして加えられたものとみることができます。序なしの舞いもあって、そちらのほうがかえって、能の「翁」式の舞いの幽玄を帯びているといえるでしょう。物語を展開する演目では、初めに「つけ」と称するナレーター役が登場し、神諷(カンナギ)を唱え、次の舞いを予告します。あるいは舞人同士が自ら科白を発し問答し、最後を「みかぐら舞」に収めます。この様式は延年舞に通じ、形から言えば日本の科白劇のひとつの濫觴(ランショウ)とも見られるとの指摘もあります(本田安治、前傾書)。

毎年神楽が奉納される神社例大祭

祭 典 日 神社名 所在地
1月15日 御崎神社 気仙沼市唐桑町崎浜
旧3月27日(浦祭り) 五十鈴神社 気仙沼市魚町
旧6月14日(宵宮) 八雲神社 気仙沼市赤岩平貝
旧8月15日(宵宮) 月山神社 岩手県陸前高田市気仙町
10月第3土曜日(宵宮) 古谷館八幡神社 気仙沼市松崎中瀬
11月2日(宵宮)
11月3日
賀茂神社
同上
気仙沼市唐桑町竹の袖

 

もっと知りたい方へ

伝習本


発行 : 平成16年5月31日
企画 : 宮城県ふるさと文化振興事業実行委員会
監修 : 千葉雄市
編集・発行 : 本吉太々法印神楽保存会
保存会事務局 : 気仙沼市松崎中瀬89-3 八幡神社内

 

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